ジャニオタが「宝塚ファンの社会学」を読んで
宝塚ファンの社会学―スターは劇場の外で作られる (青弓社ライブラリー)
- 作者: 宮本直美
- 出版社/メーカー: 青弓社
- 発売日: 2011/03/01
- メディア: 単行本
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100周年を目前に控え、親子3代のファンをもつ宝塚歌劇団。ファンは劇場前で入り待ち・出待ちをして、ひいきのスター・生徒を見に同じ公演に何度も通い、お茶会にも参加する。ファンクラブの組織形態、チケットの確保と配布、統制がとれた拍手、ガードの実際、会服とグッズなどのファンクラブの実情をわかりやすく解説し、ファンの側がファンクラブの活動をどう捉えているかも丁寧に紹介する。いい席をめぐるファン同士の駆け引きやスター・生徒へのさまざまな距離感も描きながら、非合理に見えるファンの行動がきわめて合理的に成り立っていてある「秩序」を形成していることを明らかにする。ファンがスターを作る過程に迫るファン文化論。
出版は2011年。著者が実際に宝塚のファンクラブに参加していた時期は1990年代初めから2008年くらいまで*1とのことなので、情報としては少し古いものになり、細かい変化はあるかもしれませんが、大体現状に近いのかなあと思いながら読みました。
ジャニオタがファンクラブと聞いて真っ先に気になるのはチケット問題です。今回はチケットのことを中心に、宝塚とジャニーズの比較をしながら読みました。
宝塚のファンクラブと言えば、公式には「宝塚友の会」です。
本書で取り上げているのはそれではなく、“歌劇団に登録をしている生徒個人の非公式ファンクラブ”=通称“会”です。
シアタークリエに行ったことのあるジャニオタなら、道の反対側で整列してしゃがみこんでいる集団を見たことがあるのではないでしょうか。あれです。
あれはただの愛好者の集まりでは、と思いきや、ちゃんと歌劇団からチケットを預かり、取次をする機能もあります。友の会で取れなかったチケットが、会では取れる可能性があるのです。
友の会では抽選と先着順で先行販売を実施します。抽選については、「ステイタス制」を導入し、会員である期間や利用頻度によって当選確率がアップします。
会では、会を通じて大量にチケットを購入する、劇場の入り待ち出待ちに参加する、など、会への貢献度によって、入手困難な公演や良席のチケットが宛がわれるといいます*2。
興味深いのは、座席にそれほど関心がなかった人でも、知り合いの座席との不可避的な比較によって、しばしば自分の座席の位置を意識し始めることである。前方席で観たいというよりは、会員同士の比較のなかで自分もその位置に行ってみたいという意識が漠然と芽生えることもある。純粋に舞台やスターを近くで観たいという思いはあるとしても、それ以上に知人との比較が、前方席への意識を生み出してしまうのだ。そうすると、不満に思うかどうかとは別に、もう少し会に協力してファンクラブ内でのポジションを上げようという意識につながりやすい。*3
宝塚ファンに於いては、チケット=歌劇団や会への貢献度であり、マウンティングの材料となります。
一方、ジャニーズ事務所のファンクラブにもチケットの先行サービスがあります。古株優先だの新規優先だの該当名義優先だのと色々な噂は流れますが、こういう会員は優先する、と明文化はしていません。建前上、完全にフラットな抽選制となっています。そのため、新規だろうが、担当じゃなかろうが、レアな公演や良席のチケットが当たることがあります。
運頼みであるにも関わらず、ジャニオタのマウンティングも「席」なのです。そのため、多数の名義を保有して当選確率を上げる、高額転売チケットを購入する、という手段で、「同担のあの子よりも私の方がいい席」というステータスを得ます。
宝塚では、
毎公演直前に、ファンクラブから生徒本人に「座席表」と呼ばれる紙が届けられていて、そこには誰がどの席に座っているかが示されているからである。個人名が重要なのは「お客様」筋であって、ファンクラブの一般会員は、まとまってどのあたりに座っているという程度の情報である。それでも生徒は、自分のファンクラブの会員がどのあたりにいるかを把握して舞台に臨む。そうであれば、自分のファン集団に視線を送る確率は、他の座席に座っているよりも高くなる。*4
会を通してチケットを買えば、あなたのファンであるという意思が生徒に伝わり、視線がもらえる可能性が高まる、という訳です。生徒はチケットが売れる、ファンは生徒に意識してもらえる、お互いメリットしかない、理想的なシステムだと思いませんか。
一方ジャニーズでは、ファンクラブを通して定価で入手した席でも、転売業者から買った席でも、タレントからは皆一律のじゃがいもにしか見えません。それなのに、「自分だけ視線をもらった」だの「嘘乙」だの醜い足の引っ張り合いをします。
虚しい。
宝塚を参考に、ファンのマウンティングを公式制度に組み込み、第三者に流れている利益を事務所のものにできる合理的なシステムを構築できないものでしょうか。
最後に、チケットには関係ないのですが、もうひとつ気になることを。
100年以上続く宝塚の人気の秘密のひとつに、「トップスターシステム」があります。
注目すべきは、トップスターという頂点に君臨する期間が有限であること、そして数年おきに交代という新陳代謝があるために、トップスターを目指すエネルギーが劇団内外に渦巻いていることである。*5
今のジャニーズは“新陳代謝”が不足しています。
宝塚は新陳代謝があるからこそファンも(自分の応援する生徒を押し上げたい)と活動が活性化されます*6。一方、それのないジャニーズでは、特にJr.のファンの多くが独占欲に害され、同担や新規ファンを除外しようとし、多くのJr.は大きなチャンスを得る前に舞台から去っていきます。
ジャニーズが100年続くためにはこの問題の解消と、ジャニーさんがあと45年生きていただくことが必要だと思います。